令和5年度 卒業式

2024年03月01日

3月1日、早春のおだやかな陽光の中、令和5年度卒業証書授与式を執り行いました。

保護者のみなさま、ご来賓の方々、教職員、そして在校生の温かい祝福を受けながら、新たな希望を胸に百二十余名の生徒たちが大田高校を巣立っていきました。

普通科代表  理数科代表

卒業証書授与      :普通科代表               :理数科代表 

送辞 3

在校生 送辞              卒業生 答辞

吹奏楽部 祝詞

式典に花を添える吹奏楽部        たくさんの御祝詞ありがとうございました

 

***校長 式辞***

 年ごとに早くなるようにも感じられる春の訪れ。地球規模の環境の変動がいわれて久しい昨今。それでもこの大田の地には、確かな四季の移ろいがあり、冬の寒さを乗り越えた木々の芽や、春の日差しでほころび始めた花のつぼみから、命の息吹が感じられます。

 ただ今、卒業証書を受け取った普通科89名、理数科39名の皆さん。卒業おめでとう。

 この良き日にご臨席を賜りました臼井同窓会長様、森山PTA会長様、楫野大田市長様をはじめご来賓の皆様、多くの保護者・ご家族の皆様、在校生、そして教職員一同とともに、皆さんの晴れの姿を心から祝福致します。

 さて、この一年間、私は皆さんに各始業式で、大田高校が目指す「グランドデザイン」を具体的に実現するために3つの提案をしてきました。そして今日も、卒業する皆さんに一つの提案をします。それは、

 「三瓶山のような人、をめざしませんか」。

 「山、高きが故に尊からず」という言葉があります。

 山は、標高が高いからといって、尊い、とか、凄い、という訳ではない。という意味です。

 皆さんが毎日仰ぎ見た三瓶山。その標高は1、126m。決して高くはありません。島根県内でも三瓶山より高い山はいくつもあります。富士山の1/4。エベレスト(チョモランマ)の1/8に過ぎません。

 でも、三瓶山はどこから見ても三瓶山なのです。

 出雲平野から、松江城の天守閣から、大田の方角を眺めてぽこっと突き出た山があれば、それが三瓶山だとはっきり分かります。島根・広島県境の中国山地の山々から見ても、三瓶山は良く分かるし、その姿は、遠く四国山地の愛媛県の石鎚山、徳島県の剣山からも捉えることができます。博多の商人神屋寿貞は日本海の船の上から石見銀山を発見したと伝えられています。私も船から銀山の「仙の山」の方角を眺めた経験がありますが、その後方には三瓶山が見えます。萩・石見空港から東京に向かう飛行機の窓からも、もちろん三瓶山ははっきり分かるし、行ったことはありませんが、国際宇宙ステーションISSから中国地方を見下ろした映像、また人工衛星から撮った日本列島の写真。陸からも、海からも、空からも、そして宇宙からも、三瓶山は標高はそれほど高くないのに、「あっ、三瓶山だ」と分かるのです。

 皆さんは様々な進路に進みます。でもどんな学校にいても、どんな会社・組織に入っても、どこで生活していても、「ああ、あそこにはあの人がいるよね」とか「うん、そういえばあの組織にはあの人がいるよなあ」とか、たとえ大きく目立たなくても、でもどこから見られても存在感を放つ。そんな人になって欲しいと思います。

 

 「山、高きが故に尊からず」という言葉には、続きがあります。

 「山、高きが故に尊からず、森をもって尊しとなす」

 山は、標高が高いから尊いのではなく、周囲に拡がる森の豊かさやその恵みがあってこそ尊いのだ、と言葉は続いています。

 三瓶山をはじめとするこの地域の火山活動は、太古の昔、災いをもたらしたこともあります。しかし、その活動は、かつて世界を動かした銀や国内の産業を支えた石膏、また隆起・沈降で堆積した焼物・瓦の原料の粘土など、この地方ならではの地下資源を生みました。三瓶山から湧き出る温泉は全国でも有数の湧出量を誇り、多くの観光客が訪れます。山頂まで続く天然記念物の自然林や周囲の豊かな森は、雨水を地中に蓄え、地下水となり、その水は多くの河川を流れ、流域の田畑を潤し、多くの動植物を育てます。さらに多くのミネラルを含んだその水は日本海に注ぎ、大あなごを初めとする豊富な魚介類を育む源となっています。三瓶山は、その周辺に豊かな恵みと、幸せな暮らしがもたらされている象徴的な尊い存在でもあります。

 皆さんはこれまで多くの友人、家族、先生方、地域の方々に支えられて成長してきました。しかし、皆さん一人一人の存在もまた、周囲の人にとってかけがえのないものであり、きっと誰かを支えています。「あの人のまわりにはいつも家族や友人がいるね」とか「あの人のまわりには、笑顔が絶えないね」とか「あの人はうちの会社には欠かせないね」とか、三瓶山のように、目に見える部分だけでなく、見えないところでも、周囲を豊かにし、幸せをもたらす。一人一人はたとえ小さな一人でも、そんな唯一無二の存在になって欲しいと願っています。

 

 世界を見渡すと、地震や津波などの天災、地球環境問題、新たな感染症、絶えることのない紛争、飢餓、人口増加の問題、貧困や経済格差、AI技術の急速な普及。国内の高齢化、少子化や過疎過密の問題などなど、皆さんの将来を待ち受ける社会は、まさに「VUCA時代」と呼ぶにふさわしい予測不可能なものです。ときにそれは皆さんの逆風となるかも知れません。

 三瓶山も、昔からその姿が決して安定して保たれているのではありません。日本海の季節風による厳しい自然環境や、人の手による周囲の開発などの社会環境の中で、日々変化しています。しかし、変わらないのは、この大田の大地にそびえる姿です。その三瓶山を、彼の土井晩翠は、このあと皆さんと歌う大田高校校歌(♪)の歌詞に、「虚空を凌ぐ」と表現しています。

 不確実な時代にあっても、この大田の地で培った学びと経験を土台にして、それぞれの進路で、どこにいても空へ向かって凜としてそびえ立つ、

 「三瓶山のような人、をめざしませんか」

 それが皆さんへの最後の提案であり、お願いでもあります。

 

 保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。新型コロナウイルス感染症対策の中で始まった大田高校での3年間の高校生活を経て、お子様は心身ともにたくましく、頼もしく成長されました。どうかお子様の輝ける前途を温かく見守り、時には励まし、これからも支えていただきますようにお願いいたします。

 ご来賓の皆様、そして地域の皆様には、3年間にわたり、本校の教育活動推進のために、温かいご支援とご協力を賜りましたことをこの場をお借りして、教職員を代表して心から厚くお礼を申し上げます。今後も引き続き、お力添えのほど、よろしくお願いいたします。

 終わりに、この大田高校から芽吹く128名の卒業生の皆さん一人一人が、それぞれの世界で「地域とともに未来を切り拓く」存在となり、その前途に陽光が差し続けることを願って式辞といたします。

 

令和6年3月1日

 

島根県立大田高等学校   

校長 阿部 志朗 

 

 

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